江戸時代の耳と現代の耳(Counterpoint 1)
Johann Joseph Fuxのジェダイ的対位法(counterpoint)
20代の半ばまで対位法を学ぶ機会がなく、ちゃんと勉強したのはニューヨークに来てからだった。
そのときに先生に勧められた本が「The Study Of Counterpoint」from Johann Joseph Fux's。
1725年に出版されたこの本はバッハをはじめ、モーツァルトやベートーベンなどthe greatest composerに影響を与えた!とこの本の後ろに書いてある。
ベートーヴェンはこの本を何回も読み返し作曲をしたんだよ!と私の先生がそれこそ何回も言っていた。
日本で勉強しなかったので日本式の書籍がどんな風に書かれているかわからないけど、この本は師匠と弟子の対話形式で成り立っていて、とてもわかりやすいし英語もそんなに難しくなく読みやすい。
そしてなんといっても師匠と弟子のやりとりが面白い。
たとえば
Student: Venerable master! I shall do my best!
Master: Have patient. Don't worry my son.
こんな感じでずっと進むので、私はいつもヨーダと修行をするルークを思い浮かべながらを読んでいた。
協和音と不協和音とは一体何か?
おそらく協和音という言葉より、不協和音という言葉の方が馴染みがあるかもしれない。
イメージ的には、耳障りな不快な音だろうか?協和音はその反対と言ったところだろうか?
この本の中ではこう定義される。
協和音→ユニゾン、3度、5度、6度、オクターブ
(このうちユニゾン、5度、オクターブが完全協和音。3度6度が不完全協和音)
不協和音→2度、4度、トライトーン(#4度)、7度
驚きだったのは4度(Dissonances: 左から2番目)が不協和音だったということ。
だってキレイな音でしょ?!
今では色んなジャンルの音楽や複雑なコードやコード進行を日常的に耳にしているから、1725年(徳川吉宗の頃の江戸時代。らしい。)の人達には不協和音だった音も私達には聴き慣れたのだ。
Fuxの定義はとてもstrictで勉強する上ではとても大事なことだけれど、現代の私たちの耳はおサムライさんよりも遥かに複雑な音を許容できるようになって、それはトレーニング次第でいくらでも協和音の幅を広げられるのではないかと私は思っている。
例えばこのコード。
私の大好きなコードの一つだけど、聴く人によってはとんだ不協和音に聞こえるかもしれない。
もしかすると、今は到底理解できない音や音楽も300年後にはめちゃくちゃありふれた音になっているかもしれない。
私にとっては、この音いい!キレイ!が協和音で、え?コレであってるの?が不協和音だと勝手に解釈している。
”If I ain't got you”から三角形を弾いてみる
”If I ain't got you”
まだニューヨークに来て間もない頃だったと思う。
34丁目の辺りでたまたま入ったコーヒーショップの店員さんが、アリシア・キーズの"If I ain't got you"の替え歌でコーヒーのオーダーを取っていた。
こんな具合に。
Some people want a tall iced coffee
Some people want a caramel macchiato
日本ではあまり見られない光景かもしれないが、私はこんなユーモアが大好きだ。
アリシア・キーズの"If I ain't got you"、もしあなたがピアニストでシンガーの知り合いが多ければ少なからず弾いたことがあると思う。
弾いたことがなくてもあの印象的なイントロを耳にしたことはあるはず。
3拍子の上に3連符がいっぱい。
これだけ3が多いので三角形にしてみようと思う。
三角形を弾く
三角形を弾くのは丸を弾くよりずっと簡単だと思う。
なぜなら、三角形には三つ点があるしピアノ上で三点弾くことはとても簡単だから。
例えば、最初の右手の3連符を弾くとき、鍵盤を触る指がすでに三角形を作っているように。
上の図のように高音から三角を描き続ければ、"If I ain't got you"のイントロはとても簡単に弾けるだろう。
次に楽譜上で三角形を表してみよう。
私はこんなふうになるんじゃないかと思う。
CM7とBm7はこんな淡い色の印象を受ける。
じゃあ、もしこんな楽譜だったらどんなふうに弾く?
形から曲を作る
作曲の方法には色んなやり方がある。
たとえば、メロディから作ったり、ベースラインを先に決めたり、コード進行や理論から考えたり。
その一つにシェイプから作るっていうのがあってもいいんじゃないかと思う。
まず五線譜に図形を撒き散らしてみるのだ。
それはとっても 独創的で面白い曲になりそう!
絵を描くようにピアノを弾く
ピアノで丸弾いて?
いろんな楽器の中でも、ピアノを演奏する人が一番多いんじゃないかと思う。
学校中さがしてもチェロ弾きはなかなかみつからないけど、ピアノが弾ける人ならクラスに必ず何人かいる。
オーボエよりよっぽど身近だし(いつかオーボエを習いたいと思っているが、残念ながら今のところ私の人生には現れていない)、誰が触っても必ず音が出る。(そこがイイ!)
そんなお手軽なピアノでも、もし
「ピアノで丸弾いて?」
と言われたら、どれくらいの人が弾けるだろう?
ある人は、戸惑いながら試行錯誤するかもしれない。
ある人は、そんなことできるか!と怒るかもしれない。
またある人は、聞かなかったことにしてバッハの世界に帰っていくかもしれない。
あなたならどうする?
丸を弾いてみよう!
とにかくまず弾いてみよう。
何でもいい、丸っぽいやつ。
とりあえずこんな感じ?
あるいは...
これでも丸になるかな?
視覚的に丸?
あるいは、あなたの丸は私には想像もつかない素敵な丸かもしれない。
それにしても、楽譜を閉じたままピアノの前に座って自分で好きな音を探すのは、なんて楽しいんだろう!
まちがいなんてない!
きっと丸の弾き方は、弾く人の数ほどたくさんあるだろうし、そのどれもが丸!
問題は正しいかどうかではなくて、自分でそれを丸だと思うかどうか。
もし思うなら、もうそれは丸!
だから、そんな弾き方わからないよーと心配しなくても自分が思えばそれでOK。
何弾いたって誰も怒らないから。
だってまちがいと同じで、正解なんてないんだもん。
さぁ次は何を弾こう?