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音楽をもっと自由に 〜音楽理論や作曲のこと〜

Robert Glasperを弾く 「Stella By Starlight」

Stella By Starlight

邦題「星影のステラ」と呼ばれている最も有名なジャズスタンダードのひとつ。

元々はVictor Youngが"The Uninvited"という映画のために作った曲で、マイルス・デイヴィスやエラ・フィッツジェラルドをはじめ、多くのジャズメンに演奏されてきた。

ジャムセッションでもよくコールされるので、演奏したことがある方も多いかと思う。

私の中でも、好きなジャズスタンダードTOP10に確実に入ってくる。

今回はこのおなじみの"Stella By Starlight"を、あまりおなじみではないロバート・グラスパーバージョンで弾いてみよう。

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構成

この曲は"covered"というアルバムに収録されている。

先日行ったRobert Glasper Trio @ THE METの時にも同じメンバーで演奏していて、ブリッジの部分をループしたり、パッと聴いただけでは聞き取れないようなリハモをしていたりと、とても印象的だった。

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これはリアルブックに載っている楽譜。

一般的にジャズは、[テーマ]→[インプロ](improvisation:アドリブのこと)→[テーマ]という形で演奏される。

この曲の場合も・・・

 [テーマ : A B C]→[インプロ : A B C] × くり返し→[テーマ : A B C] 

 

と演奏されるのが一般的だが、グラスパーは・・・

[テーマ : A B C]→[インプロ :  B] × くり返し→[テーマ :  C]→[エンディング] × くり返し

 

と少し変わった構成で演奏している。

Bのインプロセクションやエンディングのループがとてもグラスパーらしい。

この曲は本当にたくさんの人にカヴァーされているけど、自分の音楽にするという意味でグラスパーバージョンはとても成功しているアレンジだと思う。

 

コード

グラスパーらしさの最も重要な要素は、なんと言ってもあの美しいハーモニー。

何度となく聴いたことがある曲を、全く新しい音楽に変えてしまう魔法のようなグラスパーのリハモ(reharmonization:元のコードを別のコードに変えること)。

この曲でとくにリハモされているのは[Bセクション]と[Cセクション]、そして[エンディングのループ]。

リアルブックに載っている元のコードと見比べていこう。

 

[Bセクション]

グラスパーコードの方はベース音が半音づつ下降していて、とてもスムーズなリハモになっている。

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[Cセクション]

こちらのグラスパーコードも上段はBセクション同様半音づつ下降しているが、下段1小節目D♭△7に一度解決し、またすぐ3小節目B♭△7に解決しているのでマルチトニック的とも言える。(一つの曲に複数のトニックがあること)

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[エンディングのループ]

最後の小節のB△7(#11)がポイント!

ここは本来B♭△7に行くはずなのに、その半音上をいく。

予想外でオシャレでカッチョ良い。

(拍子が変わっているので元の楽譜の2小節分が1小節になっている)

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では実際どんな音を弾いているのか、ヴォイシングを見てみよう。

 

ヴォイシング

グラスパーのヴォイシングの特徴一つはテンションの多さ。

前にもグラスパーのハーモニーの特徴について書いたことがあるけど(Robert Glasperを弾く「Baby Tonight」)、やはり今回も6thや9th、11thが多い。

まずは音源を聴きながら一緒に楽譜を見ていこう。

 

[Bセクション] (視聴

 

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[Cセクション](視聴 

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6thや7th、時には([Bセクション]1段目の最後の小節のD♭△7#11のように)9thや#11thまで一緒に弾いてしまうのだ。

7thか6thどちらかが入ってればもう片方は省いてしまいそうだけど、両方いっぺんに弾くとよりグラスパー的なサウンドが作れる。 

あと-7の時の11thはもうMUSTと言ってもいいだろう。

好みもあると思うけど、11thが入っていた方が断然今っぽいし、これからはこっちのヴォイシングの方が主流になってくるんじゃないかと思う。

 

もう一つの特徴は和音の近さ。

一つの和音の構成音が多く、さらにそれらが密集して半音や全音でぶつかることが多い。

同時になる音が近ければ近いほど、それぞれの音がぼやけて聞こえるので、グラスパー特有のぼんやりとした抽象的なサウンドが作れる。

 

あと、これはハーモニーとは別の話だけど、音符の横にある"なみなみの縦線"も特徴の一つと言えるだろう。

これはArppegio(アルペジオ、あるいはアルペッジョ)という記号で、和音をハープのようにポロロンと弾く記号。

矢印がついてるものとついていないものがあって、ついていないものは下から上へ弾くことが多い。

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グラスパーはこの奏法を(上の楽譜を見ればわかるように)本当によく使う。

Arppegio自体は全然難しくないので、グラスパーっぽく弾きたい人は取り入れてみるといいかもしれない。

 

 

オリジナルの"Stella By Starlight"も十分美しい曲だけど、いつもと違ったアレンジで演奏してみたい方はぜひロバート・グラスパーバージョンを試してみてください!

 

*リードシートを作ったので参考にどうぞ*

Stella By Starlight (Robert Glasper ver.) in C

Stella By Starlight (Robert Glasper ver.) in E♭

Stella By Starlight (Robert Glasper ver.) in B♭