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音楽をもっと自由に 〜音楽理論や作曲のこと〜

「Renewal」 ピアノの向こうで息をひそめていた話

猫アレルギーなのに

ちょうど去年の今頃、猫を飼い始めたせいで肺炎になりかけてしまった。

毎朝病院で吸入をしないと息ができないほどで、咳がすっかり取れるまでずいぶんかかった。

とくに笑うと咳が止まらなくなるので、なるべくつまらない生活をしようと心がけていた。

そんな時、ピアニストの友人に誘われて彼女のレコーディングに同行することになった。

 

嬉しくもちょっと困ったありがたいオファー

ニューヨークから少し離れたレコーディングスタジオには、プロデューサーとエンジニア、そして演奏するメンバー(友人がリーダーのピアノトリオ)が集まっていた。

ピアノ、ベース、ドラムがそれぞれのブースに入って私はコントロールルームで演奏を聴かせてもらう事になった。

そこで彼女が私に、1曲だけどうしてもピアノブースで聴いて欲しい曲があると言った。

その曲は今回のアルバムのタイトルにもなった、ソロピアノのオリジナル曲だ。

万が一レコーディングの最中に音を立てでもしたら台無しになってしまうので、プロデューサーはもちろん反対だった。

困った・・・

咳が出るかもしれない・・・

でも彼女のレコーディングを間近で聴けるなんて・・・こんなチャンスない!

そこで、私は咳どめのガスを少し余分に吸ってピアノブースに入ることにした。

 

困ったときの村上春樹

苦々しい顔のプロデューサーを横目にブースに入ると、グランドピアノでいっぱいのその部屋にはそもそも私がいるようなスペースなんてなかった。

椅子も見当たらない。

仕方ないので、私は彼女の足元のあたりに座ってじっと息をひそめ、なるべく咳から意識を遠ざけようと村上春樹のフレーズを思い出していた。

(つまり、”夏の午後の冷蔵庫の中にあるきゅうり”のことを考えていた)

冷静に考えるとわりと妙な光景だ。

レコーディングの最中に、ピアニストの足元に”夏の午後の冷蔵庫の中にあるきゅうり”のことを考えながら咳をこらえてる猫アレルギーがいるなんて。

 

Renewal

そんな妙な光景からは考えられないほど彼女の演奏は素晴らしく、その曲は1takeで終わった。

(おかげでレコーディングを台無しにすることもなく、これ以上プロデューサーににらまれることもなかった)

演奏が始まって1小節もしないうちに、冷蔵庫のきゅうりなんて簡単に吹き飛ばされてしまうほど彼女の演奏は圧倒的に美しかった。

心の底のあたりを温めてくれるような、優しくそっと前へと押し出してくれるような、そんな演奏だった。

曲の最後には、彼女のイタズラっぽく少し得意げな笑顔そのもののようなコードが添えられている。

リニューアルしたい方にも、そうでない方にもぜひこの「Renewal」を聴いてみてほしい。

そしてその際には、ピアノの向こうでじっと息をひそめている私の存在も頭の片隅に思い浮かべいただきたい!

もしかしたら気配くらいはするかもしれないので、よーく耳を澄まして聴いてみて下さい。

 

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Renewal

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